認知症になると、これまで当たり前にできていたことが難しくなることがあります。その一つが部屋の片付けです。これは単なる「だらしなさ」ではなく、認知症の症状が原因で起こる現象なのです。主な原因として、記憶力の低下が挙げられます。どこに何をしまったか忘れてしまうため、物を探すために部屋中を散らかしてしまうことがあります。 また、判断力の低下も大きく影響します。 何が必要で何が不要かの判断が難しくなり、捨てられずに物が溜まっていくのです。 さらに、片付けという行為は、手順を考えて実行する必要がありますが、認知症による実行機能障害によって、その段取りが分からなくなってしまうこともあります。 例えば、掃除機のかけ方や洗濯物のたたみ方といった一連の動作が困難になるのです。加えて、物事への意欲や関心が低下する「アパシー」という症状も、片付けができなくなる一因です。 これまで綺麗好きだった人が掃除をしなくなるのは、この症状が影響している可能性があります。これらの症状が複雑に絡み合い、部屋が散らかってしまうのです。父が認知症と診断されてから数ヶ月、実家の父の部屋が少しずつ荒れていくことに私は気づいていました。昔は几帳面で、本は背の順に並んでいないと気が済まないような人でした。しかし、久しぶりに訪れた父の部屋は、読みかけの新聞や雑誌が積み重なり、脱いだ服が椅子にかけられたまま。最初は「年を取って面倒になったのかな」くらいにしか思っていませんでした。しかし、ある日、父が真剣な顔で「通帳がない、誰かに盗られた」と言い出したのです。一緒に部屋を探し回ると、通帳は本棚の隙間から見つかりました。その時、父はただ単にだらしないのではなく、認知症の症状によって物を置いた場所を忘れ、不安になっているのだと痛感しました。部屋の乱れは、父の頭の中の混乱を映し出しているようでした。それから私は、父を責めるのではなく、一緒に片付けをするようになりました。「この本はここに置こうか」「この服は洗濯しようか」と声をかけながら、一つひとつ確認していく。時間はかかりますが、父は少し安心したような表情を見せてくれました。父の部屋が汚れていく様は、私にとって認知症という病気を理解し、父の心に寄り添うきっかけとなったのです。
認知症で部屋が汚くなる理由